#25 知的障害を取り巻く「当たり前」が今、変わる。未来を拓く5つの重要トピックス
#25 知的障害を取り巻く「当たり前」が今、変わる。未来を拓く5つの重要トピックス
第10回全国手をつなぐ育成会連合会 全国大会の報告書を読んで

知的障害や発達障害のある子を持つ親にとって、心の奥底にあるのは「自分が動けなくなった後、この子はどうなるのか?」という切実な不安ではないでしょうか。いわゆる「親亡き後」の問題です。これまで、既存の制度はどこか使い勝手が悪く、一度レールに乗ったら後戻りできない怖さがありました。
しかし今、日本の福祉と法制度は歴史的な「大きな転換期」を迎えています。従来の「財産を保護する」という考え方から、本人の意思を尊重し、地域で自分らしく暮らすための「意思決定支援」へとパラダイムシフトが起きているのです。全国手をつなぐ育成会連合会(全育連)の最新報告をひもときながら、私たちの未来をアップデートする5つの重要トピックスをご紹介します。
1. 「一度使えば一生終わり」からの脱却:成年後見制度の抜本見直し
最もインパクトのある変化は、成年後見制度の抜本的な見直しです。全育連が令和3年に実施したアンケートでは、制度の「周知不足」が利用を妨げているのではなく、制度自体の構造的な欠陥が敬遠されている実態が浮き彫りになりました。
- 一度使うと戻れず、後見人等の変更もできない
- 財産管理に重きが置かれ、身上保護が不十分な割に報酬が高い
この切実な声を受け、国は現在「中間試案」をまとめ、以下の3案を軸に検討を進めています。
検討中の3案
- 甲案(現行維持+修正):今の仕組みを維持しつつ、後見の対象者が保佐や補助も利用できるようにするなどの微調整
- 乙1案(本人同意・個別代理):原則として本人の同意を要件とし、必要な特定の事項に絞って代理権・取消権を付与する
- 乙2案(限定的権限):乙1案に加え、判断能力が不十分な場合に、現行の包括的な権限よりも狭い範囲の権限を付与する
最大の注目点:「法定後見の終了」
現行制度は本人の判断能力が回復しない限り終了できませんが、新しい議論では「保護する必要がなくなった時」に終了できる仕組み(必要性による終了)が検討されています。最速で2027年4月、遅くとも2029年4月には施行される見通しで、「一度使えば一生終わり」という壁はついに崩れようとしています。
2. 障害年金の「等級操作」疑惑に立ち向かう
私たちの経済的基盤である障害年金を巡り、日本年金機構が等級を軽く判定するよう誘導していた疑いが報道されました。この問題に対し、全育連は他の団体に先駆けて即座に抗議声明を発表。この行動力が国を動かし、検証と結果公表を実現させました。
検証の結果、誘導そのものは否定されましたが、全育連はここで歩みを止めません。制度が適正に運用されるよう監視するだけでなく、次のステップとして「障害年金の給付額」などに関する意見交換の場を国に求めていく動きを見せています。「ある」だけの制度から、当事者の生活に即した「機能する」制度へ。声を上げ続けることの重要性が改めて示されています。
3. 「施設」から「地域」へ。支援施設の役割が変わる
今、障害者支援施設の在り方も根本から問われています。これまでの「終身の入居場所」という役割から、本人が望む場所で暮らすための「地域生活支援の拠点」へと移行が加速しています。
令和6年度の報酬改定や今後の障害福祉計画に向け、施設が担うべき「地域移行の推進」や「重度障害者への専門的支援」といった機能の整理が進められています。当事者や保護者への直接のヒアリングも行われており、「施設に入れれば安心」という親側の視点から、「本人が住みたい場所で自分らしく暮らす」という本人主体の視点へ、社会全体がアップデートされています。
4. 知的障害のある人のための「おたすけプラン」
制度の改革を待つだけでなく、民間のセーフティネットを組み合わせることも「共倒れ」を防ぐ鍵となります。全育連が展開する保険商品は、知的障害のある方の特性に寄り添った設計です。
主なプラン
- がんのおたすけプラン:シンプルな告知で加入しやすく、治療費をカバー
- 暮らしのおたすけプラン:病気やケガで所得が減少した際、60%程度を補償。自転車事故の賠償責任にも対応
- 手をつなぐおたすけプラン 介護(新プラン):親自身が「要介護2」以上と認定された場合に200万円の一時金が支払われます。また、軽度認知障害(MCI)と診断された際の10万円の一時金も備わっています
こうした具体的な「お金の備え」は、将来の不安を現実的な「安心」に変えてくれるはずです。
5. 普通学級から漢字検定5級へ。ある青年が証明した可能性
制度やお金の議論の先に、私たちが忘れてはならないのは「本人の可能性」です。全育連の本人大会で紹介された、1987年生まれのダウン症の青年のエピソードは、私たちに多くの示唆を与えてくれます。
彼は幼少期、「小さくて華奢な男の子」で「いつもみんなの一番うしろ」だったそうです。しかし、その後の成長と支援により、漢字検定5級を取得したのです。この物語は、個性を尊重する教育と地域生活が、いかに本人の主体性を伸ばすかを証明しています。固定観念にとらわれず、本人の「やりたい」を支えることが、社会をいかに豊かにするかを教えてくれます。
まとめ
制度改正、権利擁護、新しい保険、そして個人の挑戦。これらすべては、障害のある人が「自らの人生の主役」として生きるための道しるべです。
社会のアップデートを待つだけでなく、私たちも一歩踏み出してみませんか。全育連の常務理事・又村あおい氏による新刊『障害のある人が使える支援』(2024年8月発刊)は、難しい制度をイラストで分かりやすく解説した、親にとっても心強いガイドブックです。
「制度が変わるのを待つだけでなく、私たち一人ひとりが『本人主体の暮らし』を支えるために、今日からできることは何でしょうか?」まずは最新の情報を手に取り、家族で「これから」を語り合うことから始めてみてください。
あじさい園としても、利用者や保護者の皆様の声を大切にしながら、日々の支援に取り組んでまいります。
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